大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡家庭裁判所小倉支部 昭和52年(少)1171号 決定

少年 G・I(昭三二・九・八生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

(1)  昭和五二年一月三一日午後六時頃、北九州市小倉北区○○×丁目×番××号○○○○○○パチンコ店裏路上において、A所有の自転車一台(時価約二万五、〇〇〇円相当)を窃取し

(2)  同年四月一八日午後零時頃、同区○○×丁目×番××号B方において、同人所有の腕時計一個、ライター一個(時価合計約八万四、〇〇〇円相当)を窃取し

(3)  同月二九日午後一時頃、同区○○×丁目×番××号C子方において、同人所有の現金二万五、〇〇〇円、ネックレス一本(時価約六万円相当)を窃取し

(4)  同年五月四日午後零時頃、同区○○×丁目○荘×××号D子方において、同人所有のE子名義の郵便貯金通帳一冊、印鑑一個(時価約一、〇〇〇円相当)を窃取し

(5)  上記(4)のD子方で窃取した郵便貯金通帳と印鑑を使用して郵便貯金の払いもどしを受けてこれを騙取しようと企て、同日午後三時三〇分頃、同区○○町×丁目×番××号○○○○町郵便局において、行使の目的で、郵便貯金払いもどし金受領証用紙の金額欄に一五万円、住所氏名の欄に小倉北区○○×-××○荘×××号E子と記載しその名下に前記の印鑑を押捺して同人名義の郵便貯金払いもどし金受領証一通を偽造し、ただちにその場で、同局係員に対し、真正に成立したもののように装い、これを前記郵便貯金通帳と共に提出して行使し、同係員をしてその旨誤信させ、同係員から現金一五万円の交付を受けてこれを騙取し

(6)  同月一〇日午前四時頃、同区○○×丁目○○○スカイマンション駐車場において、F所有の自動二輪車一台(時価約八万円相当)を窃取し

(7)  同月一二日午後四時頃、同区○○×丁目×番××号○○○アパート×号室G子方において、同人所有または管理の現金四、七〇〇円、カセットテープレコーダー一台、腕時計二個(時価合計約四万円相当)を窃取し

(8)  同月二二日午後三時頃、同区○○×丁目×番××号○○旅館内において、H所有の現金三五万円、札入一個(時価約五、〇〇〇円相当)、運転免許証一枚を窃取したものである。

(法令の適用)

上記(1)ないし(4)、(6)ないし(8)の各窃盗につき 刑法第二三五条

上記(5)の有印私文書偽造、同行使、詐欺につき 同法第一五九条第一項、第一六一条第一項、第二四六条第一項

(保護処分に付する理由)

本件記録および当裁判所の調査、審判の結果、小倉少年鑑別所の鑑別結果通知書によれば、少年は中学卒業後の昭和四九年九月頃から窃盗等の非行を犯すようになり、次第にその回数を重ねて昭和五一年四月二六日当裁判所において福岡保護観察所の保護観察に付された。しかし同年五月三日には父のもとを出て祖母(母方)宅で徒食していたが、次いでクラブ等のバーテンを転々とし、その間に麻雀、花札、飲酒等の遊びに金を使うようになつた。同年一一月父が知人に依頼して同人方に居住させ同人が働いている工場に工員として働かせたが昭和五二年一月にはそこもやめ祖母宅や友人方で徒食し、飲食や遊びの金銭に窮して本件を犯したものである。

少年の資質等についてみると、知能は準普通域(IQ八二)であるが、特に問題は認められない。その性格は、規範意識に乏しく、情緒不安定で、即行、感情発散傾向が強く、非常に上つ調子な気分が支配的で深刻さに欠け、軽卒な行動をとる。そして社交性は存し対人接触は活発になされるが、基底での対人不信感が強く自己中心的で共感性に欠けるため表面的で希薄な人間関係しか形成できない。

少年の家庭は少年が幼少時には父母が共稼ぎであつたため祖母に放任状態で育てられ、少年の中学時代から父母の仲が悪くなり昭和四九年には別居し少年はその後も主として祖母方で暮らしてきた。その祖母も現在では病気がちで少年を監護する能力はなく、母の行方も判らず、父も少年との意思の疎通が殆んどなく、少年は父を避けて家出をし従つて少年と共に生活し得ない状態である。

以上を綜合すると、少年は成人に近いのであるが、在宅指導により更生をはかることはすでにその限界を超えており、この際施設に収容して規律ある生活を通じて健全な勤労精神を持ち社会で独立した生活ができるように教育することが必要であると考える。よつて少年を中等少年院に送致する。

(昭和五二年少第一一六三号虞犯保護事件について)

福岡保護観察所長は、当裁判所に対し昭和五二年五月三一日「少年は昭和五二年三月四日から無断外泊を続けており、同年五月一一日、同月一五日の両日に自宅の留守中自己の衣類やテレビ、扇風機、卓上計算器等を持ち出すなど、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、かつ正当な理由がなく家庭に寄り付かず、このまま放置すればその性格、環境に照して将来罪を犯す虞れがあり、これは少年法第三条第一項第三号に該当する。」旨の犯罪者予防更生法第四二条第一項による通告をした。しかして通告の虞犯事由は認められるが、本件では通告の虞犯が現実化して上記非行事実(2)以下の犯罪を犯したことが明らかであるから、この虞犯は少年の処分を決める一資料として考慮すれば足りるので、これについては少年に対して保護処分をしない。

(結論)

よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤敦夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例